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2007年01月11日

みかん二つの“まごころ”

 もうずいぶん昔の話である。私が20代後半、30才前の話である。晩秋の頃であったと思う。ゴルフの帰路であった。山道の峠を越えた辺りのバス停で老婆が腰を曲げ、寒空にポツンと一人立っていた。たぶん時刻は7時前後で、私の車のヘッドライト以外に明かりはなく真っ暗であった。私はバス停を少し行き過ぎたところで車を止め、バックして窓を開け、「よければお送りしますので乗りませんか」というと、ぴょこんと頭を下げたので車から降り、ドアを開けてその老婆を車の後部座席に乗せたのであった。

 なぜ声を掛けたのかは今でも覚えている。そのバス停は屋根もなく、当時田舎によくあった白地に赤でバス停と書いた丸い鉄製の板にポールが付いているようなもので、その老婆が仮に今、バス停に来たばかりであれば次のバスまでは1時間はあの真っ暗の寒空で待たなければならないと判断したのと、しかも頃は晩秋もう寒く、次のバスを待つのはかわいそうだと瞬時に思ったからであった。あの道路ならあの時刻、バスはよくて一時間に1本といったところであったろう。辺りに民家もなく、どこから来たのであろうかと思えるような場所であった。

 車に乗せた後、行く先を尋ねると「近くを通りかかったら、言いますので」とのことなので、とにかく車を進めたのであった。そして「この辺りで結構です」といった場所は、やはりその山道沿いの、まだ街には遠い場所であった。車の中ではこれといった会話はなかったように思う。いや、あったかのもしれないが覚えていない。車を止め、ドアを開けるため車を降りようとすると、「あのう、これを」というので後ろを振り返ると、持っていた袋のようなものから、家で食べるのであろうみかん二つを取り出してこちらに差し出したのであった。

 その後部座席での老婆は、シートに背を付けるのではなく、背を丸め両足をきちっと揃えてちょこんと座っていた。道中ずっとそのような格好で座っていたのであろう。そして両手でみかんを二つ差し出しているのであった。私は「えっ!そんな、いいですよ。」と言うと、是非にと言うので、こちらも運転席から後ろを振り向いたまま両手でそのみかんを受け取ったのであった。

 老婆は車中考えていたのであろう、このことにどのように報いたらよいのかと。もとより、こちらは何かを期待して車に乗せたのではない。しかし、この老婆の“まごころ”を素直な気持ちで頂いた。“まごころ”とはこういうことを言うのではないのか。この老婆のことは今も鮮明に覚えている。このお正月、ある体験からこの老婆のことを思い出したのであった。いずれまた話したい。

投稿者 golf : 2007年01月11日 12:12

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